詩 市民文芸作品入選集
選者詠

初 夏
尾崎 与里子

腕の細い隣家の青年の
シャドウボクシングに感応している
古風な羅針盤
昼下がり
未知の航海の前で
私は丁寧に靴の紐を結ぶ
孫の手を取って怪獣探検隊を目指し
低い重心から指をさすと
地球は音のする空欄として
作動し始める

勇気を出して出かけよう
家を後にして眼を廻すほど旋回し
林を巡る細い道を異星へと疾走する
幼い英雄が祖父から相続した吸盤が
まぶしい
スパイダーマンはどこだ!
踵がふわりと浮き上がり太陽が近づく
林の向こうで
私たちを招きながら笑っている異星人
全ての生命体と交信する鍵を握りしめ
声をあげている五歳のうしろで
明るい初夏の光を浴びている


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