二つの薮をこえて
余寒の中から春は始まる
この道を
介護のために週二回
通いはじめて数年が経ち
木漏れ日の河辺林は昼間でも
秘密めいた風が吹いていた
自転車だけが唯一の乗り物で
親類宅を訪ねる道すがら
ぽつりと呟いた母の背中を覚えている
ー おんなは三界に家なしや と
わたしの三度の産守りと
その後の孫達への気配りとに
何度ふたつの薮を越えたのだろう
脳こうそくで倒れてからは
薮を通って訪ねるのは
わたしの番となり
昨日までの出来事を帳消しにして
母は晴れた今日を待っている
いったい いくつの頃の記憶を
想い出して言っているのか
帰り際の挨拶代わりの口癖は
「きぃつけて かえらいね
ふたつもやぶを こえんならん」
南青柳橋と葉枝見橋の
薮の入り口に佇む宿り木はいつも
思い出の形をしたくす玉みたいで
ふる里への道しるべでもある |