樹のことば
誰もいなくなった故郷に
老樹は 立っている
このあたり すこし掘れば遺構にあたる
七百年
樹皮に耳をあてる
聴こえる
年輪の傾斜をしたたる樹液
祖父たちは 聞き分けたという
樹の ことば、は
いまも たゆみなく
枝々に伝えられ
やがて空へと 磁束のように放たれて
こうして この地に生を享けたものを
呼びもどすのであろう
幼いころに戻って
両手を拡げ 幹を抱いてみる
ひとまわり ふたまわり まだまだ余る
木漏れ日のまだらが揺れて
遥かな日々に散った
いとけない仲間が 降りてくる
みんなで樹を囲むとー
樹はさらに大きく 包み込むのだ
ぼくを そして視えないものたちを |