小説 市民文芸作品入選集
入選

石切り葉のある風景
正法寺町 井 豊

 石工の津島源蔵が、檜山家との共同精米所である水車小屋の隣りの粗末なわら葺き小屋に居を構えたのは、未だ春も浅い、山の谷筋のいたる所に残雪を見る頃のことであった。
 養蚕用の納屋として長い間使われていたが、戦後の食糧難で桑の根はすべて掘り返されて水田に転換されたため、今は利用されることもなく閉ざされたままだった。小屋の中には、煤色〔すすいろ〕に染まった繭棚や産卵のための渋紙などが処狭しと積み重ねられていたが、ある日のこと、それらは全て取り出され惜しげもなく焼却された。
 顔見知りの大工が二人掛りで終日工作して、まがりなりにも人が住めるようになってから幾日も経たない内に、源蔵は一人の娘と共に越してきた。
 年のころは十八、九の姿形〔なり〕は一人前の大人であったが、生まれついて智恵の着かない娘であった。
 源蔵は、村で唯一の土建業を営む中林組に雇われた石工の一人だった。
 隣村で、一昨年からダム工事が始まり、中林組は、新しい道路の造成や、水没する家の代替地の整地など幅広く請け負っていた。
 工事には、石垣などに使う多量の間知石〔けんちいし〕を必要としたため、既に数名の石工を雇って石を切り出していたが、それでも間に合わない状態だった。
 「流れ者〔もん〕の石工だが、人間〔ひと〕は悪くなさそうだから使ってみることにした」
 社長の中林芳之助が母の伊佐と話していた。
 中林組に雇われた石工達は、ダム工事の建設現場に近い飯場に寝泊りして車で通ってきたが、石切場の近くに住みたいというのが源蔵が示した条件の一つだった。娘を間近に置きたいという理由からであった。
 伊佐は相談にきた芳之助に、蚕小屋でよければ構わないと助け舟をだした。人が住めるようには中林組が工作することで話は落着した。
 源蔵が越してきた日、万年青〔おもと〕は母に頼まれ茶碗や小皿などの細々とした、差当たり日常の暮らしに必要な小物を届けにいった。
 母が何かと源蔵に気を使うのは、子持の寡男〔やもお〕であることを気の毒がる気持ちもあったが、ある魂胆があってのことでもあった。
 源蔵は、母の心遣いを、卑屈なほど腰を低くして受取った。
 「百合絵! 万年青嬢ちゃんだ」
 源蔵の視線の先には、百合絵と呼ばれた娘が坐っていたが、その声に何一つ表情を変えることはなかった。
 「今日は……」
 万年青の元気な声に目が合った瞬間、黒曜石のような冷たい瞳に見据えられ、吸い込まれそうな思いに慄然とした。
 「嬢ちゃん、百合絵は耳もよう聞こえんし、なんも喋らんでのう。生まれたままの稚〔やや〕と同じじゃ」
 源蔵は自嘲するように、もう幾度となく口にしてきたかも知れない言葉を吐いた。
 百合絵が智恵遅れであることは、万年青は母から知らされていなかったが、目の前に坐っている女からは、日常目にする範囲の人間とは異なった、何か異質なものを感じない訳にはゆかなかった。万年青は、源蔵が言った言葉の意味を、深くはないまでも理解することができた。
 仄暗い部屋の中で、剥き出された肌の白さだけが一層際立って見える百合絵の顔に、幽かであるが微笑みが浮かんだような気がして万年青はほっとした。
 百合絵は、源蔵夫婦がかなり年いってからできた子供だった。酷い難産で、母子共命の保証は出来かねると医者から申し渡された。
 妻は産まれた我が子を抱くこともなく亡くなった。
 娘も一緒にあの世に道ずれしてくれた方がなんぼか良かったかも知れん。わしが生きている内は何とでもなるが、死んだ後のことを考えると残った娘が不憫で仕方ないと、源蔵は涙ながらに伊佐に話したという。
 男手ひとつでこの年まで育ててきた苦労は並大抵のことではなかったはずであるが、源蔵はそのことについては一言も口にすることは無かった。
 伊佐は、村の民生委員を嘱託されていた。そのつもりなら、娘を預ける施設があることを話したが、源蔵は首を振って断った。伊佐もそれ以上は勧めることはせず、その内落ち着いたら、生活保護の申請をしてみると伝えた。
 中林組の石切り場は万年青の家の持ち山でもあった。
 万年青の住む村は、江の川支流の狭い河岸台地に沿って延びた小さな村だった。背後には山が間近に迫っていて、山麓からは球状をした御影〔みかげ〕石と呼ばれる花崗岩が到る所から産出した。
 万年青の家の山は道路に近く、切り出した石材を運び出す手間があまり掛らず、その上、花崗岩は殆どが地表に露出していた為掘り出す手間も省けるので、中林組専用の石切り場になっていた。
 源蔵が住みついて半月余り経った日のことであった。石切り場からの帰り、多少遠回りになるが、源蔵は万年青の家に立ち寄った。
 「岩から珍しい宝が出てきたんで、万年青嬢ちゃんにと思うて」
 源蔵は手にしていた石片を差し出して言った。
 「わァ、綺麗じゃ!」
 手渡された石片を見て万年青は思わず声をあげた。小指より少し小さめの水晶が、石片の空洞の中をびっしり埋め尽くしていた。
 晶腺〔しょうせん〕状と呼ばれる水晶の集まりだった。光に翳すとキラキラ輝き、まるで万華鏡の世界を覗いているような美しさだった。
 「こんな立派なのは儂〔わし〕も初めて眼にした」
 源蔵は、物珍しそうに眺めている万年青の掌を覗き込むようにして言った。
 「そんなに珍しい物なら、娘に持って帰ったら喜ぶのに……」
 伊佐は気の毒そうに言った。
 「百合絵は今度出てきた時でええんです」
 源蔵は自分に納得させるように何度も頷いた。
 石切り場に登ることは、危ないからと伊佐から禁じられていた。万年青にとっても、石切り場は特別興味を引く存在ではなく、これまでも行ったことは無かった。岩から出てきたという美しい水晶を目の当たりにして、万年青は急に石切り場に興味を覚えるのだった。
 その日、万年青は学校が午前中で終わると、何時ものように着物に着替えて伊佐を捜した。
 「母ちゃん、石切り場に行ってみてもええか?」
 万年青は、厩で田植えの準備をしていた伊佐を見つけて言った。
 「怪我するといけんから、ちゃんとモンペ穿〔は〕いていけ」
 暫く思案した後、伊佐は笑いながら許してくれた。
 「すぐに帰ってくるから」
 万年青はモンペを穿き、序に長靴に履き替えると、一言伊佐に声を掛けて石切り場へ急いだ。
 道路を暫く上がると、切り出した石材を積み込むための広場だった。広場の奧には険しい山裾が迫り、斜面を利用して直接石を転がして落とすのか、山肌が深く抉られて正土が剥き出ていた。
 急な斜面に沿ってつけられたジグザグの小道を登り詰めると、そこは、石材を運ぶ木馬道〔きんま〕の終点になっていた。
 木馬道を暫く登ると、トタン屋根の作業小屋が現れた。ここまで来ると、石工達が石を切る金属的な音が入り乱れて聞こえてきた。
 この辺から、以前石を切り出した跡なのか、そこら中に御影石の欠片が散乱していた。欠片は初夏の鋭い陽光を受けて、まるで雪が降り積もったように白々と光り輝いていた。
 足を運ぶたびに、積もった石の欠片は擦れ合い、キシキシと乾いた音をたてた。
 石工達はそれぞれ間隔を置いて石に向かい、石鑿〔のみ〕を鉄槌〔ハンマー〕で打っていた。一定のリズムで鑿を打つ鉄槌の音が間断なく響き渡り、そこには、紛れもない石切の場の風景が広がっていた。
 万年青は見覚えのある源蔵の姿を捜し出すとゆっくり近づいていった。源蔵は、溌破で荒割りした大きな石に取りついていたが、万年青の近づいた気配に手を休めて顔を上げた。
 「嬢ちゃんか。ようこられたのう」
 源蔵の髭面の顔が綻んだ。
 「これだけ割ったら一服するから」
 源蔵はそう言って再び石に向った。
 鋭い鑿の先が微妙に角度を変えては石面を捉え、力強く鉄槌が打ち下ろされるたびに澄んだ小気味良い音を発していた。鑿の先端から白い石粉が飛び散り、僅かずつではあるが、確実に石は穿〔うが〕たれていた。
 やがて、石目に沿って楔状の穴が一定の間隔で掘り終わると、源蔵は鉄槌を置いた。
 源蔵はそれぞれの穴に鉄楔を差し込むと、今度は鉄槌で軽く頭を打って固定させていった。
 源蔵は見るからに重量感のある玄翁〔げんのう〕を手にすると石の上に片足を乗せた。ゆっくりと、反動をつけるように持ち上げた玄翁が源蔵の頭上で一瞬静止したかと思うと、次の瞬間細い柄が撓って打ち下ろされた。
 玄翁の鎚先〔つちさき〕が透明感のある金属音を残して跳ね上がった。
 源蔵は楔の頭を順番に打っていった。歯を食い縛り、赤銅色に陽灼けした腕の筋肉がピリピリと痙攣した。
 万年青は息を詰め、目を凝らして見つめていた。
 やがて、澄んだ金属音が徐々に失われ突然濁ってきた。源蔵の振り下ろした玄翁を受けた楔は、その一振りで石の中に消えた。楔に沿って石は真っ二つに割れていた。
 楔を回収すると、源蔵は万年青を見て目を細めた。
 「ようこられたのう」
 源蔵は再び同じ言葉を口にした。
 「学校に行くより近かった」
 万年青は元気よく答えた。
 源蔵は石に坐って莨〔たばこ〕を美味しそうに一服すると立ち上がった。
 「もう木苺の実が熟れる頃じゃろう」
 そう呟くと近くの藪の中に入っていった。暫くすると、朴〔ほう〕葉を丸めて作った器に木苺を山盛りにして引き返してきた。
 「嬢ちゃん。おいしいか」
 源蔵は自分でも二、三個口に入れ、万年青がたべるのを満足そうに眺めていた。
 「後で百合絵にも持っていってくれんかのう」
 源蔵は別の朴葉に採った木苺を万年青に渡して言った。
 「ええよ」
 万年青は木苺の入った朴葉を手にすると石切り場を後にした。暫くして振り返ると、源蔵はまだ万年青を見送っていた。
 百合絵は薄暗い部屋の中にじっと座っていた。万年青と視線があってもその表情は変わらなかった。
 「源さんが苺採ってくれたんよ。百合絵さんにやってくれって……」
 万年青が朴葉に包んだ木苺を目の前に置くと、やっと百合絵の固い表情が和らいだ。
 百合絵の手が木苺に伸びた。万年青は百合絵に教えるように苺を一個口に入れると、大袈裟な仕種で蔕〔へた〕を取り出してみせた。万年青の気遣いを余所に、百合絵は上手に蔕を取り出しては口に運んでいた。
 「おいしいの?」
 万年青はまるで幼児に問い掛けるように優しく声を掛けた。
 百合絵の澄んだ黒い瞳が一瞬揺らいで笑みが浮かんだ時、万年青は不思議な美しさに思わず魅了された。
 百合絵の苺を食べる手が止まった。視線が、万年青が開けた初夏の光に満ちた戸外に注がれていた。
 百合絵は突然立ち上がると、近くの戸棚から木箱を取り出してきた。中には、丸い黄楊色の木の実らしい物が入っているのが見えた。
 乾燥した無患子〔むくろじ〕の実だった。
 百合絵は箱の中から無患子の実を二個取り出した。そして、手拭いなどの入った洗面器を持ち出してくると、万年青を誘うように戸外へ出ていった。
 百合絵の足は水車小屋から流れて来る用水路に向っていた。
 そこは、洗い物が可能なように石段になっていた。百合絵は石段に座ると、無患子を掴んで小さな小刀で果皮を剥き始めた。
 小刀は指を怪我しないためなのか、中ほどの部分だけがやや窪んで刃が付けられていた。
 百合絵がゆっくりとした仕種で丁寧に無患子果皮を剥く様子を、万年青は興味深く見守っていた。
 百合絵は剥き終えた無患子を石段の上に置き、手ごろな丸い石を使って細かく砕き始めた。
 百合絵は細かく砕かれた無患子の果皮を、洗面器から取り出した布に丁寧に移すと零れ出ないように布端で縛って袋状にした。
 ゆっくりとした仕種であったが、全てが遣り慣れた動作であった。
 百合絵は突然着物の前をはだけるようにして上半身を露にした。色白の半身が白日の陽光の元に晒され、万年青は眩しさに思わず目を細めた。
 ふっくらと盛り上がった豊満な乳房には青い血管が複雑に透け、先端には半ば没した桜色の乳首が僅かに姿を見せていた。
 百合絵は肩口まで伸びた黒髪を手で掬うようにして流れに浸して潤すと、無患子の入った布袋を手に取った。
 百合絵が洗髪しようとしていることは明らかだった。万年青も戯れに無患子の果皮を泡立てて遊んだことが何度かあった。百合絵は無患子の果皮の入った袋を流れに浸すと、二三度揉むようにして水を吸わせると濡れた髪の上に搾り出していった。
 百合絵が両手の掌に髪を包み込むように洗い始めると、見る間に黒髪は白い泡に被われていった。百合絵は長い時間をかけ、幾度となく無患子の粘り気のある液を髪に垂らしては洗い続けた。
 百合絵はやっと洗髪を止めて流水で濯ぎ始めた。漆黒の髪が流れに怪しく踊る様を万年青はじっと見つめていた。
 万年青は洗面器に水を汲み、百合絵の項に残った泡を洗い流すのを手伝った。飛沫が白く水玉となって百合絵の肩から乳房を伝い、弾けるように滴り落ちていった。
 万年青は、閑を見つけては石切り場へ登って行く日が多くなっていた。既に、石切り場は危険な場所ではなくなり、万年青は不自由なモンペや長靴をはくこともなくなっていた。
 日曜日は飯場から通ってくる石工達は作業を休んだが、源蔵は一人石切り場に通っていた。
 作業小屋で鑿や鉄楔の手入れをするためだった。堅い御影石を削るため、石鑿の先端は摩耗していったし、楔は玄翁の激しい衝撃に耐えきれず割れたり欠けたりした。
 源蔵は昔鍛冶屋で働いていたことがあった。源蔵が鍛えた鑿は、他の石工が鍛えた物より何倍も長く持った。源蔵は自分の道具の手入れだけでなく、他の石工達の道具も引き受けるようになっていた。
 鑿には、大きな岩石に発破を掛けるための、深い穴を掘る先端が平で楔状になったものと、石を小さく割るために、楔状の穴を掘る先が尖ったものの二種類があった。発砂用の鑿は、分割する岩の大きさによって太さや長さが異なったし、鉄楔も大小様々な種類が用意されていた。
 万年青は、炭火を熾したり、火力を強くするために使用する鞴〔ふいご〕で風を送る作業を手伝うのが好きだった。暫くの間源蔵の鍛冶を手伝うと、百合絵の所に遊びに行くのが常になっていた。
 万年青は、百合絵と言葉を交えることは無かったものの、何時か少しずつではあるが心が通じ合うようになっていた。
 その日、百合絵は何時もより無患子の実を一個多く持ち出した。季節は既に夏の盛りを思わせる暑い日だった。百合絵が万年青の髪を洗う仕種を見せた。百合絵は万年青の髪も洗ってくれる様子だった。
 百合絵は、万年青が着物を脱ぐのも手伝ってくれた。百合絵と違い浅黒い肌が露になった。乳房は未だほんの僅か膨らみを見せているだけであった。
 万年青は、百合絵に比べて余りにも見劣りする貧弱な裸を晒すことに恥ずかしさを覚えたが素直に身を任せていた。髪を水で潤し、無患子の滲出液〔しんしゅつえき〕を注ぐと、百合絵の指がゆっくりと動き始めた。冷たい水の感触と優しい百合絵の指先の動きが心地好かった。
 万年青はこれまで気に留めなかった百合絵から匂ってくる体臭に気付いた。時折、母の伊佐からも匂っていた。汗の匂いの入り混じった、甘く噎せ返るような大人の女の匂いだった。
 万年青は、髪を洗う指の動きにあわせてゆれる百合絵の豊満な乳房を見つめながら、自分も大人になったらあのような豊かで美しい乳房を持ちたいと願った。
 冷たい水で何度も濯ぎを終えると、百合絵は手拭いで丁寧に拭いてくれた。濡れた頚から胸にかけてすっかり水気を拭き取ると、百合絵は万年青の、茱萸〔ぐみ〕の実のような小さな乳首をそっと摘み声の無い笑いを見せた。
 鑿が握ることが出来なくなるまで禿びてしまうと、鍛え直して楔として再利用したが、割れたり欠けたりして使えなくなって鉄楔は廃棄された。
 源蔵は捨てる鉄楔を利用して小刀〔ナイフ〕を造ってくれた。
 「全部鋼だから、嬢ちゃんが大人になるまで使えるよ」
 源蔵が丁寧に研いでくれた切り出し小刀は、万年青の持っている肥後守〔ひごのかみ〕より良く切れたが、伊佐は危ないからと言って学校に持って行くことを禁じた。
 百合絵が無患子の果皮を剥くために使っていた小刀も、源蔵が造ったものに違いないと万年青は思った。
 その日万年青が作業小屋に着くと、源蔵は一服しているところだった。源蔵は、火の傍に置いてある黒く煤けた薬缶からお茶を注いだ。白い茶碗に、万年青がこれまで見たことのない美しい黄緑色のお茶が注がれた。
 「わァ、綺麗な色して、美味しそうじゃ…」
 「笹の葉っぱを入れただけよ。色が着いているだけ、白湯より増しじゃからの」
 源蔵は憮然とした表情で呟くと、万年青にも注いでくれた。見た目と違って味は乏しく、僅かに笹の葉の青臭さが口に残った。
 万年青は、何時ものように鞴で風を送る作業を手伝っていた。夏の鍛冶仕事は暑く大変な作業だった。万年青はじきに全身が汗ばんできた。源蔵のように上半身裸になれない万年青はしきりに流れ落ちる額の汗を掌で拭った。下着〔パンツ〕を穿いた下腹部は余計に熱が篭って気持悪かった。
 「嬢ちゃん、暑いからもうええ、おおきによ」
 源蔵は見兼ねて万年青の手から鞴の取っ手を握った。裸の源蔵の痩せた胸を伝って汗は玉になって流れ落ちていた。
 万年青は、赤く熱した鑿を鍛える音や、打つ度に飛び散る火花を眺めているのが好きになっていた。普段は目にする事の出来ない世界がそこには存在していた。
 万年青は着物の中に篭った熱気を追い出すように足を広げて座っていた。ふと、鞴を動かす源蔵の手の動きが止まった。鑿の先から飛散する石粉に傷ついて濁った源蔵の眼がじっと万年青に注がれていた。万年青は、源蔵の視線が広げた足の奧の下着に向けられているのに気付いて、何故かその部分がむず痒く、尿意を覚えてきた。
 「小便〔オシッコ〕がしとうなった……」
 万年青はそう言うと、石工達が時々小用をしている小屋前の草叢に近づくと下着を下げてしゃがみ込んだ。
 「嬢ちやん、こっちを向いてしてくれんか……」
 万年青の背後で源蔵の声がした。
 既に迸〔ほとばし〕り始めた姿勢のまま、万年青は向きを変えた。
 終っても暫く、万年青はそのままの姿勢で屈んでいた。
 「可愛い女陰〔ほと〕よのう」
 源蔵は一言呟くと、再び何事も無かったように鞴の取っ手を動かした。
 その夜万年青は、昼間石切り場で飲んだ笹茶のことを伊佐に話した。
 「子供のくせに、そんなもの飲むもんじゃない!」
 突然伊佐は語気を強めて万年青を叱った。なぜ伊佐から怒られたのかその理由は判らなかったが、源蔵に下着の中を見せてしまったこともあって万年青は黙ってしまった。
 「幸ヤン見かけたもんがいるそうじゃけど、あんたの処に来たりせんじゃったか」
 伊佐は桧山桃代に声を掛けた。
 隣村の幸ヤンと呼ばれる若者が、親戚の家畜商の手伝いで偶々桧山家に飼育する孕身〔はらみ〕の牛を買付に来たことが切っ掛けで桃代に惚れてしまい、その後度々押しかけて来たことがあった。幸ヤン正面〔まとも〕な仕事につかず、木炭や材木を運ぶトラック助手のような仕事をしていたが、酒癖が悪く、じき刃物を持って喧嘩をするため何処でも嫌われ者だった。
 嫌がる桃代を執拗に付けまわすので、伊佐は見兼ねて駐在所の巡査を呼んでやったことがあった。
 幸ヤンは巡査からこっぴどく説教されたのか、その後桃代に付き纏うことは無くなっていた。
 そういえば最近、万年青も学校の帰り自転車に乗った幸ヤンの姿を見かけたことがあった。
 源蔵が作業小屋にエゴノキの実を広げて乾燥させていた。
 万年青が何にするのかと尋ねると、百合絵がお手玉の中に入れるのだと教えてくれた。百合絵は、自分で上手にお手玉を縫うことが出来るのだと、源蔵は少しばかり自慢そうに言った。
 「小豆使わんの?」
 伊佐は小豆を入れてお手玉を作ってくれた。
 「小豆は勿体無い。それにエゴの実は虫がつかんでええ」
 源蔵はそう言って笑った。
 エゴノキの青い実は、村人達は魚毒として使用して鮠〔はや〕や鰻〔うなぎ〕を獲っていた。毒になる実も、乾燥すると白い殻が裂け容易に黒褐色の堅い実を取り出すことができた。
 お手玉に入れるエゴノキの実が出来上がった。
 百合絵はお手玉を作り始めた。一針一針ゆっくりとした仕種で丁寧に針を進める百合絵の瞳が活き活きとして輝いて見えた。色の付いた布の持ち合わせが無いのか、白っぽい布切ればかりを縫い合わせているのを見て、万年青は伊佐から色とりどりの端切れを貰ってきて百合絵に渡した。百合絵は、綺麗な色や柄を何度も組み合わせてみては、楽しむように縫い合わせていった。
 万年青も真似てみたが、端切れをうまく繋ぎ合わせて縫ってゆくことは百合絵のようにはできなかった。
 生まれつき智恵がつかないと言っても、百合絵はやはり立派な大人の性なのだと万年青は感心して見ていた。
 縫い終えたお手玉の中には、源蔵が用意してくれたエゴノキの実を詰めた。百合絵は一個一個手に取り、握り具合を確かめるように何度となく実の量を出し入れしては調整していった。
 小豆を入れたお手玉より幾分軽い感じがしたが、実の表面がざらついているためか、シャリシャリと乾いた軽やかな音をたてて万年青の掌によく馴染んだ。
 百合絵は、万年青のためにも五個のお手玉を作ってくれた。
 夕方、中林組の社長の芳之助が伊佐を尋ねて暫くすると、激しく口論する声が聞こえてきた。
 一方的に怒りを露にしているのは伊佐の方だった。
 中林組とは、石切り場として使用させる見返りとして支払われる金額は、間知石一個当たりについての値段で契約を交わしていた。
 月末、その月に切り出された石材の数によって計算された金額が伊佐に告げられ、前月分の代金を芳之助は現金で支払った。
 「昨年からどうも数が足らんと思うとる」
 伊佐は芳之助の示す石の数に不審を抱いていた。
 「そんなことあないですけに」
 芳之助は平靜な顔で言った。
 伊佐は、石工達が切り出した石材の数はもっと多いはずであると思っていたが、それを実証するだけの証拠がなかった。石工達は、自分が切り出した数によって賃金が支払われるため、その数はきちんと帳面に記録していた。
 「儂は石工が切り出した数を足しただけじゃから、誤魔化せる訳が無い……」
 芳之助は言い張った。
 「それじゃあ、源蔵さんの切った数はなんぼになっとるね」
 伊佐の言葉に芳之助は手帳を繰った。
 伊佐は源蔵が切り出したという先月と今月の数を聞くと書き留めた。
 「やっぱりそうじゃ。人が黙っとるのをいい事にして、誤魔化してもこっちにはちゃん分かっとる。これが源さんの切った石の数じゃ」
 伊佐は、源蔵が石切り場で働くようになってから、切り出した石の数を帳面を見せてもらって克明に書き写していたのだった。
 「源さんのは儂の聞き間違いじゃたのかも知れん……」
 不利を悟った芳之助は気まずそうに言った。
 「聞き間違いなどありゃせん。そんな狭い事をするんじやったら、明日からもう石は売らん」
 伊佐はきっぱりと言い渡した。
 「それだけは堪えてつかあさい。儂が悪かった。石切り場がだんだん道から遠くなって、運び出す手間が掛り過ぎるもんで、つい……」
 父親の役目もこなすほどの男勝りの伊佐にかかっては、証拠を掴れた以上如何することも出来ず、芳之助は数を誤魔化してきた事を認めない訳にはゆかなかった。
 今年に入って切り出された石材数の一割を来月分で弁償するということでやっと話が着いたのは、夜も更けてからのことであった。
 「源さんには、酒の一本買ってやらんといけんなぁ……」
 風呂からあがった伊佐は顔を綻ばせて満足そうに言った。
 学校は夏休みに入り、万年青は毎日川に泳ぎに行くのが日課となっていた。小さな子供達は素裸で泳いだが、年長の少女はシュミーズを着て泳いでいた。同じ学年の何人かは既に胸を隠して泳いでいたが、万年青は未だ下着だけで上半身は裸のままだった。
 久しぶりに百合絵を尋ねてゆくと、何時ものように無患子の入った箱を取り出してきた。あれだけ沢山あった無患子が残り少なくなっていた。以前と違って、頻繁に髪を洗っているのだと万年青は思った。
 百合絵が着物をはだけて上半身を露にした時、暫く見ない間に起こった身体の変化に気付いて万年青は思わず目を見張った。薄桃色に染まっていた乳暈は何時の間にか赤味を帯び、以前にも増した豊かに張った乳房の先には、半ば埋もれていた乳首がはっきりと姿を現していた。
 色白の乳房に赤紫色の乳首が異様に目立って、気味悪ささえ感じた万年青は、以前百合絵の豊かな乳房に憧れていた気持がすっかり失われていた。
 立秋を過ぎると谷川の水は急に冷たさを増して、子供達の戯れる姿がめっきりと減っていた。その日、万年青は早々に水浴びを切り上げた。百合絵の家の近くまで来た時、草叢に無造作に倒されている自転車に気付いた。不安に襲われた万年青は急いで百合絵の家に向った。
 何時もは開け放たれている入口の戸も障子も閉まったままだった。
 入口の引き戸の隙間から覗き込んだ万年青の顔が一瞬強張った。万年青の不安で的中していた。
 着物の裾を乱して、下半身剥き出された百合絵の上に被いかぶさっているのは、やはり幸ヤンだった。万年青の目の前で男の裸の尻が激しく動いていた。抗っているはずの百合絵の腕が確りと男の首に巻きついているのに気付いて万年青は息を呑んだ。
 万年青が目にしているのは、大人の男と女の行為に他ならなかった。
 百合絵のうっとりした表情からは、幸ヤンを嫌っている様子は見られなかった。
 心臓の鼓動が激しく打ち、息苦しさを覚えた万年青は夢中で掛け出していた。
 その夜床に着いてからも、昼間覗き見た光景が瞼に焼き付いて、万年青は何時までも眠ることができなかった。
 その日万年青が目にしたことは誰にも話すことは無かった。
 山里の秋は日毎に深さを増してきていた。稲田を飛び交う赤蜻蛉の群れが目立って多くなってきた。稲田の向こうには百合絵のいる家が間近に見えていたが、万年青は横目で眺めて通り過ぎるだけだった。
 源蔵が石切り場からの帰りに立ち寄った。
 「明日、久しぶりに大きな岩に発破をかけるんじゃよ。綺麗な水晶が出てくるとええがのう」
 源蔵は、岩に発破をかける度に知らせに来てくれるのだった。岩の中に昌腺状の水晶が存在すると、その部分が脆いため、割れた表面に現れてくるのだと源蔵がいった。
 わざわざ伝えに来てくれた源蔵を見送りながら、幸ヤンの事は知らせた方が良かったのではと、万年青は迷った。
 翌日、万年青が登って行くまで源蔵は発破を掛けずに待っていてくれた。
 まず源蔵は、万年青の背丈の倍以上も深く掘った穴に導火線を差し込むと、間に密封された粒状の黒色火薬を注いでいった。注いで火薬の上に乾いた粘土を詰めると、その上に棒を打ち込んで頑丈に蓋をしていった。
 発破の準備が終わると万年青や他の石工を安全な岩陰に避難させた。やがて、導火線に点火した源蔵が引き返してくると、万年青の肩を庇うように抱いた時、鈍い爆発音が響いた。音に驚いて飛び立った野鳩の羽音と共に、辺り一面に飛び散った石の破片が木の葉に当る音がして直に元の静けさが戻った。
 きな臭い硝煙の匂いが篭る中を岩に急いだ。巨大な岩は見事に三つの大きな塊に割れていたが、水晶の姿は何処にも無かった。真新しい石の断面が強い陽光に晒され、御影石を構成する雲母が繊細な輝きを発していた。
 「これにも入ってなかったの……」
 源蔵は一言呟くと作業小屋に向った。万年青は肩を落として歩いて行く源蔵を見て、百合絵のために待ち望んでいるのなら、以前貰った水晶を返してもよいと思った。そのことを伝えるため万年青は源蔵の後を追った。
 「明日は、無患子の実を取り行かんといけん。未だ時期が早過ぎるかも知れんのう」
 源蔵は独り言のように小さな声で呟いた。
 万年青は話し掛ける機会を失った。
 万年青は縁側に座って、取り入れの終った稲田をぼんやりと眺めていた。落穂を漁っていた雉の群れが急に飛び立った。背中を丸め、疲れきった足取りで山から下りてきた源蔵は、無患子の実を採りに行った帰りなのだろうか、しかし、その手には何も無かった。
 源蔵が息を急かして伊佐を尋ねて来たのは、それから間もなくのことだった。
 「百合絵が苦しんで転げ回っとる」
 源蔵は顔色を変えて伊佐に訴えると、またあわてて引き返していった。伊佐も源蔵の後を追った。
 「源さん、百合絵の腹にゃぁ、赤子ができとる。知っとたんか」
 伊佐は叱りつけるように声を荒げた。
 「稚が!」
 源蔵は一言呟いた切り絶句した。
 「早よう医者に見せんといけん。ここでは手に負えん」
 伊佐は急いで引き返すと中林組に電話を掛け、すぐ自動車を回すように言った。
 車に抱きかかえられるようにして乗り込む百合絵の白い太股が鮮血でべっとりと染まっていた。
 その夜遅くなって、病院に付き添っていた伊佐から百合絵が亡くなった事を知らせる電話が入った。
 村人達は源蔵の家に集まり、前の田圃で焚火をたいて遺体の帰りを待った。
 自動車が停まり、そこから百合絵の遺体は戸板に乗せられて運ばれてきた。先導する提灯の灯が、まるで人魂のようにゆらゆらと揺れ動いていた。
 百合絵の遺体の脇には、小さな白い布の包みが添えられていた。月足らずで死産した嬰児の遺体だった。
 焚火の炎に映えて、秋霜が煙るように降り続いていた。
 「未だ起きとったんか。風邪引くといけんから帰れ」
 伊佐は万年青を見つけると、泣き腫らした目で肩を押すようにして言った。
 百合絵は激しく苦痛に襲われ続けたのか、声にならない呻き声をあげながら息を引き取ったという。
 伊佐は、百合絵の色白な横腹にくっきりと残る赤黒い痣を見つけて、誰かに激しく蹴られた為のものではないかと医者に尋ねた。
 医者は厄介な事に関わりたくないのか、流産の苦しみの挙句に、上がり框か、敷石の角にでも打ちつけたのだろうと言った。
 源蔵が無患子の入った箱を持って出てきた。箱の中には、無患子の代わりに百合絵が縫ったお手玉が入っていた。伊佐は、普通の物に比べて半分にも満たないお手玉が混じっていることに気付いた。小さなお手玉は、赤や青や黄色などの端切れを使って綺麗に縫い上げられていた。
 「この娘は赤ん坊が生まれくるのが分かっていたんかのう……」
 伊佐は、生まれてくる子の為に縫ったと思われる小さなお手玉を手にして涙した。
 「誰の子でもええ。元気に稚を生んで欲しかった」
 源蔵もそう呟くと、声を押し殺して泣いた。
 棺桶には、百合絵と一緒に月足らずで流産した子供も入れられた。
 「あの世で仲良う遊びんさい」
 伊佐はそう言うと、百合絵が縫ったお手玉を入れてやった。
 万年青は、野辺送りの行列が山陰に消えるまでじっと見送っていた。涙が頬をすっと走って落ちた。
 雨は、一昨日から止むこともなく降り続いていた。
 万年青はその夜から高い熱を出して寝込んでしまった。
 覗き見た百合絵と幸ヤンの姿を何度も夢に見て、魘されては目が覚めた。
 幸ヤンが源蔵の家から出て来るのを見たという魚の行商人の話が村中に広がった。
 「源さんの姿が見えん」
 伊佐を尋ねて来た芳之助が言った。
 家具はきちんと片付けられていたがそのまま置いてあったので、いずれ帰って来るつもりなのだろうと伊佐は思った。
 万年青は三日ぶりに床を離れた。未だ何処となく身体がだるく気分も優れなかったが、家にいても所在なくて万年青の足は源蔵の家に向かった。主の居なくなった家が秋空の下にぽつねんと建っていた。水車小屋から米を搗く音が聞こえていた。万年青は、百合絵が何時も髪を洗っていた流れに下りて見た。果皮を剥いて捨てられた無患子の黒い実が、昨日まで降り続いた雨に濡れて漆黒に輝き、まるで百合絵の澄んだ瞳を思わせた。
 用水路の水は以前と変わらず勢いよく流れていた。万年青は、水底に何時までも動く気配のない一匹の蟹を見つけて、長い間ぼんやりと眺めていた。
 決って夜になると出ていた微熱からすっかり解放され、元の万年青にかえったのはそれから十日も経ってからのことだった。
 久しぶり爽やかな青空が広がっていた。
 万年青は今でも気になっている事があった。水晶を手にすることもなく亡くなった百合絵のことだった。やはり、あの時源さんに返しておくべきだったと、今になって万年青は後悔していた。
 万年青は源蔵から貰った水晶を手にすると、百合絵が眠っている墓地に向った。百合絵は行き倒れ者を埋葬する共同墓地に葬られていた。
 途中、道端に吾亦紅〔われもこう〕の花が咲いていた。百合絵に手向ける為に採ろうとした万年青の手が止まった。吾亦紅は淋しい色の花だった。万年青は百合絵の乳房を思い出していた。
 万年青は薄紫色の竜胆の花を摘むと墓地に向った。
 百合絵の野辺送りを見送ってから未だ一ヵ月もたっていないというのに、万年青にはもう何ヶ月も前の出来事のように思えるのだった。
 竹筒に挿された女郎花の葉は、長雨に腐って溶けてしまっていたが、今だ花は黄色を留めていた。
 万年青は竜胆の花を手向け、水晶を未だ新しさの残る土饅頭の裾に置くと手を合わせた。水晶が溢れる陽光の中でキラリと美しく光った。
 万年青は突然下腹部に鈍い痛みにも似た感覚を覚え戸惑った。軽い眩暈〔めまい〕が襲い、しゃがみ込んだ万年青は、みるみる赤く染まってゆく下着を茫然と見つめていた。
 万年青、十二歳の秋だった。
 それから何日か経った日の地元新聞に、ある殺人事件を扱った記事が載っていた。万年青の村から二つ離れた村での出来事だった。
 秋祭りで賑わう神社の境内で、露天商の手伝いをしていた男が突然何者かに鋭利な刃物で脇腹を刺され、近くの病院に運ばれたが出血多量で間もなく死亡したという内容のものだった。死亡した男は、邑智郡XX村・山本幸一郎、三十一歳と書かれていた。
 駐在の巡査と消防団で山狩りをしたところ、神社の裏山の、松の根元に蹲っている男を発見したという。男は血の付いた手製の短刀を所持していた為、殺人の容疑で逮捕したが、身元などは一切不明であるとのことだった。身柄を所轄の警察署に移して、身元や殺人の動機など詳しく取り調べ中であるという。
 それから半年も経たない内に、村は雪の季節を迎えた。やがて、深い雪に埋もれて石切場は閉ざされた。
 春になり、雪が溶けても石切り場に石を切る鉄鎚の音が響くことは二度と無かった。石切り場が山奥に移り、石材を運び出す手間が掛り過ぎることと、便利なコンクリート製の石垣用ブロックの普及が閉鎖の理由だった。
 隈笹〔クマザサ〕茶が、精力剤として薬効があり、催淫作用もあることがこの地方で言い伝えられていたことを知ったのは、それから後の、万年青が大人になってからのことであった。


( 評 )
 貧しながらも人々が懸命に生きていた昭和三、四十年代ころを回顧させる佳編である。「石目」をよんで石を穿つ熟練技術など細部が正確に描かれている。洗髪に無患子の実、お手玉にはエゴノキの実を用いるエピソードも生活感や時代性を醸し出すことに成功している。ただ、源蔵が万年青に隈笹茶を飲ませる場面など、隈笹茶にまつわる性的な話題は余計である。やや後味を悪くしている。

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