詩 市民文芸作品入選集
入選

ローカル・ニュース
池州町 真野 美栄子

ゆでて やわらかくなった繭を
水の張った たらい桶に入れ
中から カイコを取り除き
左右の手で 引き伸ばす

桶の向こう正面に
立て掛けられている 四角い枠に
引き伸ばされた繭が
手際よく かけられていく

なに気なく見ていた県内放送
案内された
故郷の ひとつ隣の村の名に
忘れていた光景が 飛び出し
おぼろげな記憶が 呼び覚まされた

小学校の小使いさんの土間で
休み時間になるのを待って
させて させて と
やらせてもらった角真綿〔かくわた〕の出来る ひと工程

まさに そのまんま
今 その場に居るように
においも漂う

冬の朝 母が
肌着の上から 背中に
伸ばし ひっつけてくれた
あのぬくもりも

懐しい人に 突然出会えたような
たまらない あったかさで
次の作業へと変わる画面が
うすい真綿に つつまれ
湯気だって 見えはじめた


( 評 )
 偶然眼にした「角真綿作り」の放映から、作者は忘れていた懐かしい場面に導かれていく。真綿の柔らかさが人へのあたたかさへつながる終連が美しい。

もどる