生家の夏
葉刈りの済んだ木々の整えられた呼吸と
生家の棟、梁、柱が呼応し
「夏休み」の主が庭に面した廊下で昼寝する
その日も空は雲を産み
軒下のガラス風鈴を奏でる風を産み
ネコのあくびの横で眠る弟
おしゃべり声が聞え出し
井戸のスイカが頃合に冷え
アブラゼミの声も絶頂の二時過ぎが
目覚め時
スイカに塩をふる祖母
弟の口はスイカ汁でいっぱい
弟の首筋は汗の玉が
ぬぐってもぬぐっても噴き出ていた
そんな夏、つなぎあった夏があったはずだ
生家を建てた祖父も祖母も
もういない
弟は生家に住まず
私は「さようなら」をした
毎年夏の葉刈りはされようとも
スイカを頬張る人がいなくなっても
生家は夏が似合うといっていたい
内耳〔ないじ〕の蝸牛〔かたつむり〕があのセミの声を覚えているかぎりは |