詩 市民文芸作品入選集
選者詩

倚りかかる
石内 秀典

喪服の女は
坂を下りていった
真昼
刺すような日差しを
襟首に受け
女はうつむいて下りていった

明日死ぬクマゼミの
投げつける声が
地上を覆った

“どうでもいいよね”
昨日逝った友の
細い唇から
言葉がこぼれたとき
それを拾ったものの
とほうもない重さに
女はうずくまる

日傘もささず
じりじりと焼ける
クマゼミの声のなかへ
女は
身を投げ出す
女は
倚りかかる
激しく透明な蝉の声に


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