詩 市民文芸作品入選集
選者詩

初冬の森へ
尾崎 与里子

クヌギ コナラ エゴノキ
一面の落ち葉が
重なり絡まりあっている場所の
もうすぐ消えてしまおうとするものを
私は
ひそかに踏みつけているのかもしれない
いのちの最後のぬくもりの
いくつかの想い出のようなもの

ずっと前に
私は胸に細い月を抱いていた時があった
片方の耳がいつも虚ろで
森の夜をふるえながら帰った
内側から私を照らして
満ちたり欠けたりしていた月の淋しさは
何の速度で
満ちたり欠けたりしたのだろう

夜生まれて開き
ひかり始めるものたちと共有した秘密は
答えを持たない私の体のなかを
透きとおった一匹の魚になって泳ぎまわり
どこへともなく去って行った
私は深い息をして
朽葉〔くちば〕のやわらかいぬくもりを踏んで歩く


もどる