白菜

白菜がひと株
遠い町の
新聞紙に包まれ　やってきた

一枚剥ぐたびに　たじろぐ朝がある
濃緑〔こみどり〕　 萌葱〔もえぎ〕　 浅黄色〔あさぎいろ〕
せめぎあい　口ごもる　日の底の
気迫と逡巡を泡立ててくる
暮らしの芯の　きっぱりと
変らぬ背筋を示している

知らないふりはできない
生きてきた足もとを
打ち消すような事はしたくないと言った
この冬も
霜が降りた後の引き締った甘さだ

さりさりと
湿った因習をはじきながら
望まれれば
どんなものとも折りあっていく
じゃまをせず　なじみ
くたくたになるまで寄り添う
しなやかな尊厳の歯ざわりよ

遅れがちな身を自ら引っ張りあげ
丸ごと差し出すのは
どんな密約なのか
あの国の庭先の甕　この国の三和土〔たたき〕の樽で
地を這う女たちの腕と腰
一日をしのぎ繋いでいく底力に
仕込まれている

新聞紙に土がついている
しわをのばすと　指先から
里山の冷気がしみてくる
誰かに話しかけたくなる畦道の向こう
畑いち面に　物語〔ドラマ〕は
寡黙な祈りを結んでいる