曼陀羅華
お彼岸も近いというのに雪が舞う
白い祭壇にお前はいつも笑っている
元気だった頃の姿のまま
「おやっさんどうやいな またお寺参りで
もしょうか」
そんな声がおだやかに呼ぶ
二年余りの闘病生活が続き
四十八才の人生に一言の遺言もなく
愚を貫いて終止符を打った
脳に出来た悪性腫瘍
声も出せず目も見えず無意識の内に
私に示してくれた無常の対話
七十余キロあった体も
一つの小さな白木の箱となり
抱いて帰った遺骨の温もりが
今でも微かにこの手に残っている
急ぎ足で通り過ぎたあの時
私が預かった大切な鍵は
一体どんな形だっただろうか
朧夜の櫻花の中で想い出せぬまま
模索し続けている
一片も一輪の彩も
すべてが曼陀羅に納められた花浄土から
お前は今も笑顔で
心配ないよ 手ぶらでおいで と
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