詩 市民文芸作品入選集
選者詩

薬草園
尾崎 与里子

山のふもとの薬草園には
まだ伝説になったことのない秘密の花が
窪地で
ひっそりと風に吹かれている
毒殺者のように
花を手に握っているのは
木札に刻まれたさびしい裸の名前だ
そこにしかなく
そこだけで消されていく
うすいえにしの系譜
種子のない花の名
「勇気」と古代の王が名づけ
夕暮れにひときわ白さを際立たせている
かすかな舌先のしびれと
清楚な幻惑に
風がとまり
草の匂いにみちた祈りが
あたりにこぼれてくる
私は輪郭をぼんやりさせたまま
これが薬草なのだと納得する
ほほえみたくなり
窪地から
帰路とはいえない道をたどり始める


もどる