女の手を
女は
雑居ビルの地下の一室で
砂漠の薔薇をいけている
男はその薔薇が壊れないよう女に
手渡してやり
女の手が血で染まると
その手を吸ってやった
女は砂漠の薔薇に飽きたのか
砂を敷き詰め
筆で風紋らしき線を書き始めた
永遠に終わりがないように思えた
ころ
男は雨の音を流した
それも森に降る雨音を
これで個展が完成したと女は呟き
男は女の手を洗ってやった
気の遠くなるほど昔の
暑いある夏の出来事
そういう個展すらあったのか忘れ去られ
あの雑居ビルは今もあるのか
今でも覚えているのか
男は
女の手を洗いつづけている
※砂漠の薔薇…ある種の化合物が、自然現象で
バラのような形状の結晶に成長した石である
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