すみれの側から
早速ですが
あす カメラ検査をしましょう
春風がしっこく雨戸を揺すった夜
救急外来の当直医はいった
いたずらもせず 訴えもなく
秘かに増しつつあった二文字の影
映しだされた画像で
医師の告知は すぐさま明瞭で
いが栗のような感触を
驚きや疑いの暇もなく わたしは
いともすんなりと受け入れ
旅仕度ほどのあれこれを
ふたつの鞄に集めはじめた
台所では
今まで据え膳だった娘が
とつぜんの主婦業を決めこんで
まな板に向かっている
そのうなじのむこうの
潤るんでいるだろう目頭
この春 なぜか山盛りに開花した
石垣すみれの側からは
窓越しに
見えているだろう
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