応募された方々の息吹や感興の伝わる選歌でした。
　歌は飾りものより裡なる真実を、怠けず弛みなく学ぶということは自明です。強いられるものでもなく、自由自在に、自分の心を真の意味での解放の一手段であります。
　真正面から見る、斜交いから考える、裏をのぞく、じっくり見詰める、それらの感興が厚みのある一首を構成するものです。
　その途上、いつか或る日、自分の生き方や作歌に懐疑や不満を抱える日が到れば飛躍のチャンスになりましょう。
　ご自身、真剣に考え、真面目に悩み、本気で体当りすることが新しい展開＝道です。　　

　昨年より応募者が増えたのはうれしい。然し、作品はというと毎年と同じようなもので、とりわけ感動するというものはなかった。毎月十か所余の歌会に出かけていて、そのたびにもっと自分の出ている作品を作ること、もっと余情性のある作るよう言っているが、なかなかそうはいかないらしい。要はもう少し早い目に作って二回も三回も見直すことを、やかましく言っているがそれもむずかしいようだ。又、自分の歌に合った歌人を選んで、その人の歌集をよく読むようすすめている。こうしたことが履行されればもう少し作品の質が向上するだろう。高齢者になればなるほど佳い作品を作るよう心がける、その覚悟が必要である。その
辺を充分考えて作歌にのぞむのを願っている。

　応募者数、歌数も上昇傾向にあるのは喜ばしいことである。短歌は五七五七七の五句三十一音の様式で、昔から数限りない歌が詠まれてきた。そんな中で、新鮮な題材を見つけ、新しい表現をして、自分自身の歌を詠むことは並大抵のことではない。総じて、短歌とはこういうものという安易な概念があって、そこに安住しているのではないだろうか。そこからは類型的な作品しか生まれて来ない。最近復刊した馬場あき子の「短歌セミナー」の中で、（短歌を始めてから）二年目の課題はいかに多くの名歌を知っているかと言うことと記している。名歌を通じて、何が新鮮なのかがわかってくるのである。努力なしに進歩はない。