詩 市民文芸作品入選集
入選

ゆいごん
西今町 やまかみ まさよ

三月半ばというのに
また風雪の便りが届いた

きのう
ひだまりの縁側で
おぼえたばかりのにぎりこぶしをつくり
爺じの肩を
たたいていたおさな子

きよう
さむそうな顔をして
届けられた手紙をひらくわたし

つい先々月
逝ったばかりの母から
言いのこしたことがあっての
彼岸からのしろい文面

口数の少なかった母は
さよならのまなざしだけを残していった
――もう だいじょうぶ
    わたしはひとりで留守居ができる
そう返事を書いて
明日の窓辺にたたんで置いた


( 評 )
 思いがけない春の雪を、亡くなった母からのゆいごんとして受けとめる。静かで優しい作者の感受性を感じる。生と死をテーマにして成功している作品だとおもうが、もう少し詳細に描かれていれば、より伝わりやすくなったのでは。

もどる