かえり道
お会いするだけで安らぐのです
いのちを託しておりますから
ためらいながら診察室でいった
若い外科医も表情を繕
うように
目にも留まらぬ運指で
コンピューターのキーを撫で
ひたすら検査結果の画像を
解いて聞かせた
自分のスタンスだからと
休日も病室を訪れ
日々の桜の変化を伝えては
短い散歩をうながした その花の色は
かかわる人達への懸念なのか
大しごとを終えた夕暮れどき
彼の肩にふりかかった安堵なのか
花の下を歩くと
かすかな声が降りてきた
術後のことだった
生の境目に気づかされると
人の直向きさが透けて見え
路地を埋めるノウゼンカズラの
落花をよけながら帰る
|