詩 市民文芸作品入選集
入選

バラの献花
日夏町 秋津 マモル

朝うっすらと雪が積った舗道に
鳩が凍えて死んでいました
そばにバラの花が添えてあって

バラの献花 バラの献花

何処かで見た光景だが 思い出せない
子供の頃 繰っていた本で
ふと目にとめた挿絵だったか?
――異国の名も知らない大路で
    誰かが手向けた哀弔だが――
その記憶が今頃 思い出されるのは

凍えた鳩の閉じた瞼よ
眼尻にやどる露はなんだろう
雪が溶けて溜ったのか それとも
命終に流した涙でしょうか
それが眠っていると見えるのは
死が深い「晏如」だからでしょう

鳩はどこから来たのか 誰なのか
――老鳩か 家路に忙ぐ父鳩か それとも
    所用で出ていた母鳩か――
何ごとが起きたのだろう
早朝の白い大路に屍をさらしてるなんて

仲間がいても 死ねば捨てゝゆくしかない
眼尻にやどる露は惜別の涙だった
いまわの際には生涯を回想するというが
おゝ なんと懐かしい過去であったか
在りし日々のくさぐさは

バラの献花 バラの献花

いちりんの赤いバラの花が
余りに眼にしみるので 稼ぎに行く男達も
ショールで顔を包んだ女達も
肩を張り見ないふりして行くのでした


( 評 )
 ヨーロッパの古い街角を舞台に繰り広げられている物語のような印象がある。雪の白とバラの赤の対比が美しいが、少し説明的で冗長な部分があり、惜しい気がする。

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