渡るもの
心してお渡り下さい ホタルブクロに灯が入るまでは 空がふいに暗くなると 雨が壁のように降り注ぎ 壊れかけた橋は 煙り始める 渡れば墓地のある小高い丘 橋の途中で 立ち往生する 骨壷の中で 姉はひかえめにつぶやいた ――なにほどの時間が要りましょう 人が 生まれたことを忘れるのに 水面を 灯の入った ホタルブクロの群れが 川幅一杯に 激しく ながれ 川は光の帯 そこは 無言で渡るもの