詩 市民文芸作品入選集
選者詩

渡るもの
石内 秀典

心してお渡り下さい
ホタルブクロに灯が入るまでは

空がふいに暗くなると
雨が壁のように降り注ぎ
壊れかけた橋は
煙り始める

渡れば墓地のある小高い丘
橋の途中で
立ち往生する
骨壷の中で
姉はひかえめにつぶやいた

――なにほどの時間が要りましょう
    人が
    生まれたことを忘れるのに

水面を
灯の入った
ホタルブクロの群れが
川幅一杯に
激しく
ながれ
川は光の帯
そこは
無言で渡るもの


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