詩 市民文芸作品入選集
特選

米原市 篠原 ゆう

私は
おまえをこの世に送り出す
ひとつの窓に過ぎなかったのだから
おまえが
いつどんな開け方で
その窓から
飛び立って行ったところで
それは
それだけのことなのだろう

おまえはどこに居ても
その木の手触りペンキの匂い
あの日そこから漏れていた明かりの色を
ふと甦るように想い起こす
それは
それだけでいいのだろう

おまえがその窓辺を懐かしく想う頃には
たぶんその窓は跡形もなくなっていて
何年もの月日のあとで
ここに窓があった
ただそれだけの
ひとつの記憶

そしてまた
おまえはおまえの窓をつくる


( 評 )

 巣立っていく者へのエールと作者の諦念を、「窓」という外界との接点である存在に依託することで、生きていくことの深さに、より現実感を持たせる良い作品になっている。


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