光る窓
梅の花が 今朝
若い呼吸を始めている
その吐く息の真白さにうたれ ゆり動かされ
枝と枝の直線の間から
二両仕立ての電車がやってくる
獣のように荒く近づいてくる
あの車窓からは
三月初めの日本海が見えてくる
言い訳を受けつけない断固とした黒さ
打ち寄せる波の鋭い叫び
凍える木々の断片 引き裂かれる風の音
立ち止まれば たちまち巻き込まれ
吹きちぎられる沈黙
抗い難いこの錯乱こそ わたしの
初めての旅の行く手だと思えた
身近な者たちの喪失を諦め切れない
蹉き断たれた進路は認めがたい
いたわられ 励まされることさえ
十八歳のわたしをぐずぐずと打ちのめす
けれど 左側に続くおだやかな山並みの欠如
淡い雑木林 さ緑に芽吹く野の混在へ
折り合うことはできない と
世界に向かって憤り のたうつ力
その反動で かすかな展望にかえていく
あの電車
乗っていたはずのわたしは
ここにいて
電車は汗のようなものをしぶかせ
歳月の草原を一枚の画布にして
いま 横切ろうとしている
中には わたしではない若いわたしがいる
動悸でくもりがちな窓を
あのときと同じ目で光らせ
わたしを見ている
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