詩 市民文芸作品入選集
特選

漬ける手
東近江市 辰巳 友佳子

四十路になって感じる
確かな義母の手の営み
その手は大きい
ひび割れた手はいつも土が入り込み
その手で切った漬け物に抵抗があった
以前は

四十路を過ぎて分かる
その手はごまかさない
塩加減も量ったように
いつもの樽に重石に漬ける

長男に嫁(私)をもらうというその時
五十半ばで未亡人になり
次男に嫁をもらい
九十の姑の最期を看取り
今もなお同じ味の漬け物を漬ける義母

結婚当初から義母の肩腰の湿布張りは
私の手
求肥のような背中の肉に
冷たい布を張ると
ラードの溶ける色香がある

今年は何十本の大根洗いを手伝ってみよう
義母と一緒に草餅を作ってみよう
鮒寿司も少し習ってみよう

私の手もこの家の味に漬けられてゆく


( 評 )
 義母と作者との長い時間にわたる確執を、溺れすぎない手腕でうまく描いている。4連の表現には、思わず引き込まれるような美しい肉感を感じる。

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