詩 市民文芸作品入選集
特選

佐和山小学校  一九四一年
外町 江口 峻

アバンは足のわるい老人
いつもハアハアと息を吐く
子供が付けたあだ名

「弁当を残せ 弁当を残せ」と
三級上の先輩
アバンが悪いと教室を回る

彦市谷の里
わら小屋に
住みついた老人
皆で弁当の残りを
鍋の中にいれた
ねていたアバンが
細い目をあけ 手をあわす
目には涙 涙が

朝 稲かぶに白い霜
霜のなかに血をはいて
うつぶせに倒れていた

村中を付いて回った子供
アバンはもういない
何処からきたのか誰も知らない

古城山ふるしろやまに雪ぐもがつたう
手をあわすアバンの涙
冷たい風

一九四一年一二月八日
センソウが ながいセンソウが


※彦市谷―佐和山の谷佐渡根村の住民の頭の名がついた通称の地名
※古城山―彦根城の城山に対し佐和山城


( 評 )
 太平洋戦争直前の田舎の町の小学校で何があったのか。作者らと「アバン」との友情の物語はここで完結しますがその直後から始まる戦争の長く苦しい日々がこの詩から予見されます。

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