詩 市民文芸作品入選集
入選

宿り木
西今町 やまかみ まさよ

南にむかってさざなみ街道をあるく
大きな川の 橋のたもとには
祈りのかたちをした一本の樹が佇む
他よりひときわ梢をひろげ
ひとり一人のうちあけ話を
しんみりときいているような姿勢して

まわり道して
わたしはいつも抱かれにくる

誰にもうちあけなかった胸のうちを
大樹によりかかってつぶやくとき
まるくておだやかな
ひとふさのくす珠になってゆくのがわかる

私の思いをわかってくれた気配に安心し
いつもの梢の枝先に
またね のキスを送って帰る

ひくくおもたい冬空の下
芽吹きかけてはいても
つん とすまして立つ河辺林はいつまでも
気がつかない素振りのままなのに



( 評 )
 この詩の「宿り木」は作者の胸の内をそっと受けとめてくれる心の宿り木なのだろう。その木が<祈りのかたち>をしていること、よりかかった自分が<ひとふさのくす珠になっていく>というイメージが美しく印象的だ。

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