詩 市民文芸作品入選集
入選

おさわさん
日夏町 寺村 滋

おさわさん お元気ですか

「被災された方達に 一服お茶を差しあげたいと思いまして・・・」と
和尚さんに頼んだら
電話で手配をして
車で連れて行って下さった仮設の住宅
午後三時のティータイム

車の中から眺める七ヶ浜町は
瓦礫が撤去されて
土台石と道だけの更地の町
春の海が向うに光り
「何もなければ恵みの海なのにねぇ」と
和尚さんは 津波の恐ろしさを語る

心を込めて一服というには あまりにお粗末
二十名近い方々に 一気に茶筅を動かして点てたので 泡立ちもどうであったか
彦根の銘菓を「この餅菓子(がすぃ) おいすぃ・・・」とおさわさん
湯気を一吹き 飲んで下さったのが嬉しかった

高校卒業したての孫が もたもたと茶碗を洗っているのを見かねて手伝ってくれました
「お客様に手伝ってもらってすみませんねえ・・・」といったら
「言う程のことかね・・・」と
にっこり笑ったおさわさん

津波から一年
時が癒してくれた笑顔と手の動きだったのでしょうか
前向いて 淡々と生きるって難しいことですよね

「おさわさん どうぞお元気で・・・」



( 評 )
 東日本大震災の被災者との心温まる交流の様子から、「おさわさん」を描くことで、作者の、謙虚さや優しさを兼ね備えた人柄も自然に浮かび上がってくる。その膨らみが平易に流れやすい書き方の内容を深くさせている。

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