詩 市民文芸作品入選集
選者詩

晩夏
石内 秀典

蜻蛉の薄い羽根を
指先で
そっとつまんで
顔をしかめて立っていた

ひとよ
そのとおい夏
木漏れ日の道で
緑はあなたを包んだ

はるか向こうの山並にかかる
白い雲が
わずかにもれあがるのを見ながら
あなたは
立ち尽くしていた
頬を触るには
あまりにも遠く

その後
一人寂れた停車場を発った

伝えられなかった
僕の左手


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