夕暮れどき
逝ってしまった人のことを
静かに語れそうになった日
主をなくした
山ほどの衣類を箱に詰める
書物をうず高く積み上げる
詰めれば詰めるほど
積めば積むほどに
がらんどうの引き出しや書架から
止めどなく零れてくるもの
好きでなかった
癖や仕草がこいしく
好きだったことが痛くなり
これもこれも手放せないと
続きを娘にゆだねる
秋冷えの庭のプランター
ハナムグリが四匹
マリーゴールドの
花弁を食べつくしたまま
しがみついている
「こがね色の秘密は
この黄色から貰っていたのか」
と つぶやきながら
穏やかなほほえみよりも
なぜか 気難しかった
夕暮れどきの顔に
向き合いたいと思う
(ハナムグリは コガネムシ科の昆虫の一種)
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