詩 市民文芸作品入選集
特選

夕暮れどき
西今町 谷口 あみ

逝ってしまった人のことを
静かに語れそうになった日
主をなくした
山ほどの衣類を箱に詰める
書物をうず高く積み上げる

詰めれば詰めるほど
積めば積むほどに
がらんどうの引き出しや書架から
止めどなく(こぼ)れてくるもの

好きでなかった
癖や仕草がこいしく
好きだったことが痛くなり
これもこれも手放せないと
続きを娘にゆだねる

秋冷えの庭のプランター
ハナムグリが四匹
マリーゴールドの
花弁を食べつくしたまま
しがみついている
「こがね色の秘密は
 この黄色から貰っていたのか」
と つぶやきながら

穏やかなほほえみよりも
なぜか 気難しかった
夕暮れどきの顔に
向き合いたいと思う

 

   (ハナムグリは コガネムシ科の昆虫の一種)



( 評 )

 身近な存在を失った時の悲しみや逡巡、まだ追憶とは呼べない時点での未整理で繊細な気持ちが伝わってくる。作り過ぎないことで作品が落ち着いた成熟を感じさせ、秋の澄んだ空気の中の黄色が淡く美しい。


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