応募作4編はいずれも作者の血肉が注がれたものであり、選者として、というよりも一読者として楽しませていただいた。佳作の「押入れ」はユニークな作品であり不思議な魅力を持っている。「親として」は作者の赤裸々な人生模様を髣髴とさせ、肉親においてすら失われつつある絆の大切さを教示してくれる。 さて読者から選者の立場に戻った時、順位をつけなければならないという非条理が待っている。読み手の心をとらえたか、文章表現はどうであったか、当然、誤字脱字の有無も加味しなければならない。独自の世界観が描写されているとなおよい。作者が苦しみながら書くのと同様、選者も苦しみの末、順位をつけざるを得ない。 文章には作者の人間性がでるものだ、とよく言われるが、今回の4作品からもうかがえる。さらに他者を見つめる温かく、鋭利な作家の視線が感じられた。