市民文芸作品入選集
小説
木下 正実  畑 裕子 :選
 

 特 選 
日夏町   増田 由季
 
入 選
日夏町   小林 勝一
中央町  

近藤 正彦

 
佳 作
開出今町   沢田 初枝


<総 評>

 今年は応募数(四編)こそ例年とそう違わなかったものの、粒揃いの秀作が集まった。選抜に苦労するのは選者冥利というものだが、いずれを落とすのも忍びなく、事務局の了承を得て入選を二編採らせてもらった。
 特選の『弱鬼』は、彦根城の天守台築城にまつわる「歴史小説」であるが、英雄像を好んで描いた司馬遼太郎風の歴史リライトではなく、どちらかと言えば人情譚を主にした山本周五郎や藤沢周平風の「時代小説」に近い。
 時代小説は、歴史のタガが多少外れても構わないジャンルである。「皿屋敷」の「お菊」伝説は全国各地にあるが、この作のお菊も、そうした伝説上の人物であるに違いない。虚と実をない交ぜながら、人生を制約された人間がいかにして自由に生きることができるかという現代的かつ普遍的なテーマを照らし出した功績は大きい。
 一方、入選作『床屋の源さん』は、彦根藩の足軽の末裔が明治以降の近代を懸命に生きる姿が描かれる。来年は彦根城の本丸天守台が完成(慶長十一年)して四百周年になる。記念すべきときに、彦根城や彦根にちなんだ秀作を得たことは喜ばしい限りである。
 それにつけても小説は自由なジャンルである。もう一つの入選作『山と川そして里』も、その小説の特徴を存分に発揮している。新たな書き手の出現を心から願うものである。

木下正実

 
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