職場におけるパワーハラスメント対策が義務化されました
「労働施策総合推進法」「男女雇用機会均等法」「育児・介護休業法」の改正
令和元年6月5日に「⼥性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の⼀部を改正する法律」が公布されたことにより、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇⽤の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(以下「労働施策総合推進法」という。)が改正され、令和2年6月1日から、職場におけるパワーハラスメント防止対策が事業主に義務付けられました。
また、併せて、「男⼥雇⽤機会均等法」および「育児・介護休業法」においても、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに係る規定が⼀部改正され、今までの職場でのハラスメント防止対策の措置に加えて、相談したこと等を理由とする不利益取扱いの禁止や国、事業主および労働者の責務が明確化されるなど、防止対策の強化が図られました。
なお、中小企業については、パワーハラスメントの雇⽤管理上の措置義務は、2022年4⽉1⽇から義務化となり、それまでの間は努⼒義務となります。
職場のパワーハラスメントとは
改正された労働施策総合推進法において、事業主は、職場におけるパワーハラスメントについて防止措置を講じることが義務付けられています。
また、併せて、事業主に相談したこと等を理由とする不利益取扱いも禁止されています。
どこまでが「職場」なの?
事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれます。
勤務時間外の「懇親の場」、社員寮や通勤中等であっても、実質上職務の延長と考えられるものは、「職場」に該当しますが、その判断に当たっては、様々な状況を考慮して、個別に行う必要があります。
「職場」の例
出張先、業務で使用する車中、取引先との打合わせ場所(接待の席も含む) 等
労働者とは、誰のこと?
正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員等いわゆる非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用する全ての労働者をいいます。
また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者(派遣先事業主)も、自ら雇用する労働者と同様に、措置を講ずる必要があります。
職場におけるパワーハラスメントの概念
職場におけるパワーハラスメントとは、職場において行われる
1 優越的な関係を背景とした言動であって、
2 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
3 労働者の就業環境が害されるもの
であり、この1から3までの要素を全て満たすものをいいます。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
パワーハラスメントの6類型
職場におけるパワーハラスメントの状況は多様ですが、代表的な言動の類型として、6つの類型があげられます。
ただし、これらの例に限定されるものではなく、また個別の事案の状況等によって判断が異なることもありえますので、事業主の方は⼗分留意して、職場におけるパワーハラスメントに該当するか微妙なものも含め広く相談に対応する等、適切な対応をお願いします。
なお、以下の例については、優越的な関係を背景として⾏われたものであることが前提です。
1 |
身体的な攻撃 (暴行・傷害) 1 殴打、足蹴りを行う 2 相手に物を投げつける |
2 |
精神的な攻撃 (脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言) 1 人格を否定するような言動を行う。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言 動を含む。 2 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う。 3 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う。 4 相手の能力を否定し、罵倒するするような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者あてに送信する。 |
3 |
人間関係からの切り離し (隔離・仲間外し・無視) 1 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長時間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする。 2 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる。 |
4 |
過大な要求 (業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害) 1 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる。 2 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する。 3 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる。 |
5 |
過小な要求 (業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと) 1 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる 2 気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない |
6 |
個の侵害 (私的なことに過度に立入ること) 1 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする 2 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する
|
ハラスメント防止のための関係者の責務
今般の法改正により、職場におけるパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントおよび妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止するために、事業主や労働者に対して、主に以下の事項について努めることとする責務規定が定められました。
事業主の責務
1 職場におけるハラスメントを⾏ってはならないこと、その他職場におけるハラスメントに起因する問題に対する自社の労働者の関心と理解を深めること
2 自社の労働者が他の労働者(※)に対する言動に必要な注意を払うよう、研修その他の必要 な配慮をすること
3 事業主自⾝(法⼈の場合はその役員)が、ハラスメント問題に関する理解と関心を深め、 労働者(※)に対する言動に必要な注意を払うこと
※ 取引先等の他の事業主が雇⽤する労働者や、求職者も含まれます。
労働者の責務
1 ハラスメント問題に関する理解と関心を深め、他の労働者(※)に対する言動に必要な注意 を払うこと
2 事業主の講ずる雇⽤管理上の措置に協⼒すること
※ 取引先等の他の事業主が雇⽤する労働者や、求職者も含まれます。
ハラスメント防止のために事業主が雇用管理上講ずべき措置等
職場におけるハラスメントを防止するため、事業主が、雇用管理上講じなければならない措置として、主に次の措置が、厚生労働大臣の指針に定められています。
なお、派遣労働者に対しては、派遣元のみならず、派遣先事業主も措置を講じなければな らないことにご注意ください。
■ 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
1 パワーハラスメントの内容、パワーハラスメントを⾏ってはならない旨の方針 を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること
2 パワーハラスメントの⾏為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に 規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
■ 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
3 相談窓⼝をあらかじめ定め、労働者に周知すること
4 相談窓⼝担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。 パワーハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、パワーハラスメン トに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること。
■ 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
5 事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
6 事実関係の確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に⾏うこと。
7 事実関係の確認ができた場合には、⾏為者に対する措置を適正に⾏うこと。
8 再発防止に向けた措置を講ずること。
■ 併せて講ずべき措置 (プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)
9 相談者・⾏為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知すること。
10 事業主に相談したこと、事実関係の確認に協⼒したこと、都道府県労働局の援助制度を利⽤したこと等 を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
※ このほか、職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについては、 その原因や背景となる要因を解消するための措置が含まれます。
関連リンク
あかるい職場応援団 http://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
職場におけるハラスメントは個⼈としての尊厳や⼈格を不当に傷つける、⾏ってはならない⾏為です。また、これに起因する問題としては、労働者の意欲の低下などによる職場環境の悪化や職場全体の生産性の低下、労働者の健康状態の悪化、休職や退職などにつながり得ること、これらに伴う経営的な損失など様々なものがあります。
新型コロナウイルス感染症の影響により、社会が大きく混乱している今だからこそ、お互いに協力しあって、ハラスメントのない職場をつくっていきましょう。
更新日:2024年09月02日