第12回 児童虐待と子どもの人権(2021年2月)

更新日:2024年09月02日

HP番号: 15991

はじめに

昨年(2020年)初めから続く新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、感染者やその家族をはじめ、医療従事者、運送業者等への偏見や差別が大きな社会問題となりました。本市では、いわゆる「コロナ差別」の発生を防止するために、現在、様々な取組(啓発ちらしの配布、啓発ポスターの掲示、「彦根市民人権宣言」の発出など)が進められているところです。

コロナ差別が起きている背景に、感染への不安や恐れだけでなく、休業や失職による生活不安等も重なってストレスが高まっている状況があると言われています。特に、新型コロナウイルス感染症の拡大により、非正規雇用労働者、宿泊、飲食サービス業等に従事する割合が大きい女性への影響が強く表れています。女性をめぐる人権問題として、DVや性暴力の増加・深刻化も懸念されます。最近の内閣府調査によりますと、昨年4月~11月の「DV相談件数」は、各月前年の1.3~1.6倍と増加傾向にあります。新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う外出自粛の影響で増加したと内閣府はみています。

コロナ禍での児童虐待の現状

DVが起きている家庭では、子どもに対する暴力が同時に行われている場合があり、DVと児童虐待の関連性が指摘されています。子ども自身が直接、暴力を受けている場合は言うまでもなく、子どもの見ている前でどちらかの親が配偶者に暴力を振るったり、暴言を吐いたりすること(面前DV)は子どもへの心理的虐待にあたります。

児童相談所への通告件数

近年、この面前DVが急激に増えています。警察庁の統計では、心理的虐待やネグレクト(育児放棄)も増加傾向ですが、面前DVの増加が際立っていて、心理的虐待全体の数を押し上げていると言われています。背景には、警察がDV事案に関わったときに、その家庭に子どもがいれば、児童相談所に通告することが徹底されてきていることがあります。面前DVによる心理的虐待が子どもに与える悪影響は、計り知れません。例えば、親が家の中で暴力を振るう音や声を聴いただけで、子どもは寝られなくなり、身体の不調として表れます。暴力の現場を見れば、トラウマ(心的外傷)として残ることも危惧されます。親との接し方で、不安を抱え続け、不眠になる子どもいます。また、「両親の間の暴力を止められない」ことで、無力感や罪悪感を持ってしまう子もあり、自己評価が低下し、心の発達にも影響が出てきます。対人関係がうまく築けなかったり、感情のコントロールがうまくできなかったりということにつながっていく恐れもあると言われています。

児童虐待防止の取組から

トラウマの画像

児童虐待を防ぐために、2000年に児童虐待防止法が成立したのが、国の施策推進の始まりです。児童虐待を定義し、児童相談所の権限・機能を強化しました。児童虐待の早期発見への努力義務と、発見した際の通告義務が定められています。

2004年の改正児童虐待防止法では、「児童の人権を著しく侵害するもの」と明記して、児童虐待の定義を見直しました。面前DVも児童虐待とすることや児童虐待を受けたと「思われる」児童も通告義務の対象としました。虐待の早期発見、対応が進み、通告件数の増加につながっていったと思われます。

2008年には、2回目の改正虐待防止法が成立しました。この改正では、児童虐待のおそれのある保護者に対する都道府県知事による出頭要請の制度化、児童への接近禁止命令制度の創設、裁判所の許可を得た上での強制立ち入りを認めることなど、行政の取組を強化しました。そして、3回目となった改正児童虐待防止法が2020年4月に施行されました。改正のきっかけとなったのが、東京都目黒区(2018年3月)や千葉県野田市(2019年1月)で相次いで起こった子どもの虐待死事件でした。主な改正点は、「親権者がしつけとして体罰を与えることを禁止」したことや「児童相談所で一時保護など介入対応をする職員と保護者支援をする職員をわける」ことで、虐待が疑われる保護者との関係性を保とうとしたことです。DVと虐待が同時に行われている場合を考慮して「DV対応機関との連携」などが挙げられます。

児童虐待防止対策の課題

トラウマのイラスト

新型コロナウイルスの緊急事態宣言が出されていた昨年5月頃は、児童虐待相談件数が一時的に前年より減少しましたが、専門家は「情報提供が減り、潜在化した可能性がある」と指摘しています。今また、11都府県に、緊急事態宣言が出ています(1月末現在)。児童虐待が見えにくくなり、対応の遅れから救える子どもの命が失われるようなことがあってはなりません。脳科学の研究では最近、児童虐待を受けた子どもの脳に悪影響が起きるという指摘もされています。虐待を受けた人は、成人した後も後遺症に苦しみ、生きづらさを抱えているといわれます。

年々増え続ける児童虐待通告件数に児童相談所が人員不足もあって、対応しきれていないのが課題としてあります。国では、児童相談所で活動する児童福祉司の増員を目指していますが、育成が追いついていないのが現状です。専門職の手を借りて、医師や保健師、弁護士などの他職種との連携を深める取組も始まっています。市民からの通報が増えるにつれて、警察の役割も増しました。虐待を疑われる子どもを保護するために自治体との連携が不可欠となっていますので、さらに進めていく必要があります。

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