心に寄り添う認知症ケア~市立病院認知症ケアチームの活動~
患者さんの様子を伺う菱澤医師(糖尿病代謝内科・認知症サポート医)
超高齢社会が進み、2040年には約1,200万人が認知症やその予備軍になると予測されています。今や認知症は、誰もが直面する身近なテーマです。
彦根市立病院では、病気や怪我で入院した認知症の方が、安心してぬくもりのある医療を受けられるよう、2017年に「認知症ケアチーム」を結成しました。活動10年目を迎えるチームの取り組みを紹介します。
認知症ケアチームとは
認知症ケアチームの役割
入院に不安を抱えた認知症患者やご家族を支える、医師・認知症看護認定看護師・社会福祉士・作業療法士のメンバーからなる多職種チームです。メンバーがそれぞれの視点を持ち寄って、患者さんの生活歴や検査データ、入院中の様子を多角的に分析し、一人ひとりの患者さんにとっての最善のケアを病棟スタッフと共に考えます。
また、身体を縛らないケアの推進や、院内外での研修にも注力しています。専門知識と連携の力で、入院中の不安を安心へと変え、スムーズな治療と早期退院をサポートしています。
患者さんの情報を共有し、意見を出し合います
毎週患者さんのもとに伺い、患者さんの状態やケアの状況を確認します
「その人らしさ」を守る医療へ―入院現場の新しい常識

発足時からチームに関わる、金子医師、藤井看護師にお話を聞きました。
入院を機に現れる「不安」に寄り添う
金子医師: 急性期病院である当院では、患者さんは肺炎や心不全といった身体の病気やケガの治療を目的として入院されます。しかし、認知症の方にとって入院という環境の変化は想像以上のストレス。入院を機に認知症の症状が悪化したり、混乱して「せん妄」を起こしたりするケースは大きな課題でした。現場の看護師だけで対応するには限界があります。そこで専門知識を持つチームが介入し、現場の負担を減らしながらケアの質を向上させるため活動しています。
Q. チームが関わるようになって変わったことは
金子医師: かつては、混乱して自ら点滴を抜いたりする危険を防ぐため、患者の手足を固定するなどの身体拘束は安全管理上やむを得ないという空気がありました。しかしそれは人権に関わる問題です。チームが介入し、現場の認識を変えることで拘束に頼らない看護へシフトしてきました。
藤井看護師: 大切なのは「なぜその行動をするのか」を考えることです。「痛いのか」「トイレに行きたいのか」。その原因をケアで取り除きます。患者さんの様子に気付けるよう、当院では、看護師ができるだけ病室内に留まる「セル看護提供方式®」を導入しており、患者さんには、誰かがそばにいる安心を感じていただけます。
一人の人間として尊重し、安心感を
Q. 入院中に大切にしていることは
藤井看護師: 入院したからといって、これまでの習慣を中断させないことです。本を読んだり絵を描いたり、少しでも入院前の生活と同じことができるようお手伝いしています。また、ご家族の不安や、現場の困りごとを即座に共有して対応方針を決めています。
認知症の方は、自分の失敗に深く傷ついていることもあります。まずは目を合わせて挨拶をする。そんな「一人の人間として大切にされている」という安心感を持ってもらうことが、何よりのケアになります。
Q. 市民の皆さんへ伝えたいことは
金子医師:私たちの活動は、身体の病気をしっかり治して、元いた場所に戻っていただくことを目的としています。その後は家庭や地域で、認知症の方を孤立させないことが重要です。認知症の方を地域社会全体で支え、見守るコミュニティを地域の皆さんと共に作っていければと願っています。
information
食事やケアのポイント、進行予防、排せつについて
認知症ケアチームでは、患者、ご家族、介護者に寄り添うガイドブックを作成しています。
ぜひご自宅でのケアや、地域での認知症ケア活動にお役立てください。
「頑張りすぎない認知症ケア 少し気持ちが楽になるためのガイドブック」はこちらからダウンロードできます
温かなふれあいのひと時「院内デイケア」
認知症の進行とともに笑顔が減った母。院内デイケアに楽しげに参加する姿を見て、明るかった頃の母を思い出しました。
入院という非日常の中でも、その人らしく、やりたいことができる温かな居場所を。
そんな願いから2018年に始まった「院内デイケア」では、入院中の認知症高齢患者さんを対象として、月2回、歌や体操、創作活動などを行っています。いきいきと活動する患者さんの様子を見学された家族が、「昔の姿を思い出した」と涙されることもあるそうです。
活動を支えるのは、市民ボランティアの皆さん。それぞれの得意を活かしたレクリエーションを提案し、準備して、活動中は患者さんに寄り添いそっと手助けします。
こうした心穏やかに過ごせる時間が、住み慣れた我が家や地域での暮らしへ戻るための大切な一歩となります。
南京玉すだれに歓声があがります
懐かしい歌を皆で歌います
季節の工作や手芸を行います
院内デイケアを運営する市民ボランティアの皆さん
院内デイケアで期待される効果は?
- 一日のなかにメリハリをつけ、生活リズムを整える
- 心と体の「できること」を維持し、社会とのつながりを保つ など
大事なのは「促す」「頼む」「してもらう」 前ほどできなくても、ゆっくりでも
市民ボランティア中島さん
他にも金亀体操指導員や傾聴ボランティアとして幅広く活動中
にぎやかに飾り付けられた「院内デイ」の部屋には、色鮮やかな工作や懐かしい歌が溢れています。
患者さんに寄り添うのは、定年まで看護補助者として同院に勤めた中島さん。退職後、「お世話になった場所へ地域貢献として恩返しをしたい」とボランティアの道を選びました。
中島さんは、自身の闘病経験を経て、患者さんの孤独やもどかしさが分かるようになったといいます。「入院患者さんは病の苦しみのなかにおられることが多いです。ひと時でも、つらさを忘れ、希望を見出してほしい。そう思って活動をしています」と、優しい眼差しで語ります。
活動で大切にしているのは「できない」と決めつけないこと。様子を見ながら少しづつ促し、フォローすれば、患者さんは本来の力を発揮されます。自作の作品を手に病棟へ戻り、看護師から「素敵だね」と声をかけられた瞬間の誇らしげな表情が、周囲にも希望を広げます。
「誰でも、いくつになっても、褒められるとやる気が出てくると思うんです。そこは大切にしたい。嬉しそうな笑顔が見られることが何よりの生きがいです。」と語る中島さんの情熱が、病棟に温かな光を運んでいるようでした。
認知機能の維持のために作業療法士がおススメする かんたん体操&脳トレ
作業療法士 伊藤さん
「体を動かすこと」と「頭を使うこと」を一緒に行うのがポイントです。
できるものから、楽しく続けてみましょう。
認知症は誰にとってもひとごとではありません。
できることからはじめてみませんか?
しりとり運動
歩きながら、または足踏みをしながら「しりとり」をします。一人でも、家族と一緒でもOKです。
言葉を考えながら体を動かすことで、脳が活性化します。

指の体操
両手を前に出し、右手と左手で違う形のグー・チョキ・パーを作ります。慣れたら、左手が右手に負けるなどルールを作ってもOKです。
指先を動かすことで、脳への刺激につながります。

一日ひとこと習慣
その日あったことを、ひとことでよいので書いたり、誰かに話したりしましょう。
思い出す・まとめる・伝える力の維持に繋がります。

日常生活がトレーニング!
料理や掃除、買い物なども立派な脳トレです。「次に何をするか」を考えながら行ってみましょう。
毎日の習慣を、できる範囲でも継続していくことが大切です!

この記事に関するお問い合わせ先
市立病院
電話:0749-22-6050
ファックス:0749-26-0754




更新日:2026年07月01日